ズドンと刺さるストーリーに出会ったので、どんな話だったのか簡単にまとめます。
先にタイトル言うと、菊池寛て人が1919年に書いた『恩讐の彼方に』って短編小説でした。
【名著】ズドンと刺さるストーリー『恩讐の彼方に』をざっくり読む
どんな話か、序盤・中盤・終盤に分けてあらすじをまとめます。
【序盤】道を踏み外して罪を重ねる男
主の妾に手を出してしまった主人公。
斬られてもしょうがないところだが、はずみで逆に主を殺してしまう。
事件が起きたこの武家はのちにお家断絶となる。
主人公は妾と一緒に逃亡。
そして茶屋を営みつつ、旅の客を襲って金品をせしめる悪事に手を染める。
妾だった女性も悪いやつで、「高価そうだったカンザシを盗り忘れてくるなんて、あんたバカかい」と死体へ盗りに走るような人間。
その姿をハタから見た主人公は自分のしてきたことの浅ましさやろくでもなさに気づいて、盗んだものも女も捨てて逃げる。
【中盤】僧になって罪滅ぼしの道を探し求める
自分のしてきた罪にさいなまれ、寺に救いを求めて出家した主人公。
「了海」という名をもらい、滅罪のために全国行脚の旅に出る。
困っている人を見ては助けつつ全国行脚を続けるが、罪ほろぼしには程遠い。
自己嫌悪を抱えつつ旅する中、豊後国(現在の大分県)にて断崖絶壁の難所にさしかかる。
鎖と朽ちた丸太で渡るような道なので、毎年10人以上は死者が出る場所なのだ。
了海は「ここに道を通せば多くの人を救うことができる。私の探し求めたものがようやくみつかった」と、ひとりで岩山に穴を掘りはじめる
近所の人々は「気が狂った坊主」と笑う。硬い岩盤は1年掘ったところでたいして掘り進まず。
乞食のようなナリをして掘り続ける了海をののしる輩もいた。何年も掘り続けて、多少は進んだ。
「ひとりでここまで掘ったなら、本当に掘り通す可能性もあるのかも」と、手伝う人も出はじめるが、先はあまりにも長い。みな掘るのをやめて、了海ひとりに戻るのが常だった。
やがて人々の目は嘲笑から同情に変わる。
「あの坊主は掘り通すことができずに人生を終える。なんて無為なことを続けているんだ、可哀想に」と。
了海は歳を取り、目もかすみ、人ならざる姿になりながら岩を穿ち続けるだけだった。
【終盤】了海を発見した「恨みを持つ者」
岩山に掘られた穴は半分に達し、人々は「もしかしたらあのお坊さまは掘り通せるかもしれない」と希望を持ちはじめる。
一方、了海を探して旅をする若者がいた。了海が殺した主の息子である。
赤子だった息子は成長し、父の死に様を聞いて以来、復讐を悲願として生きていた。
あの事件以来、家は取り壊され、さんざんな目にあってきた。
「一族の仇をなんとしても地獄へ送ってやる」と了海を探しつづけていたのだ。
ついに了海を探し当て、いざ決闘というところだが、了海は「斬られて当然のことした。お斬りください」とボロボロの身なりを差し出し、若者は拍子抜けする。
そこへ人々が割って入り、「了海さまはずっとこの穴を掘ってきた。了海さまが掘り終えるまで待ってはくれんか」と若者に懇願する。
思っていたと違う仇の人物像に戸惑い、いったんは刀を鞘におさめた若者。
しかし夜になると積年の恨みや一族の悲運を思い出し、「やはり斬らねばならぬ」と洞穴に入ってゆく。
そこにはひとり槌を振るいつづける了海がいた。
暗闇の中でひとり、何度も何度も打ち続ける了海の姿を見た若者。
刀を収め、「一刻も早く掘り終えてキサマを斬ってやる」と、了海の隣で穴を掘り始める。
若者が来てから1年と6ヶ月。了海が穴を掘り始めてから21年。9月の夜。
ついに穴が岩山を貫いた。二人の歓喜が洞穴に鳴り響く。
空いた穴から差し込む月光に照らされて、涙を浮かべながら了海は言った。
「待たせて申し訳なかった。さぁお斬りくだされ」
若者は何も言葉が出ず、骨ばった了海の手を取り、二人で泣くばかりだった。
名著・菊池寛『恩讐の彼方に』まとめ
といったストーリーでした。
「深い業を穿ち貫いた人間の信念」みたいなものがズトンとくる話ですね。
親の仇に友情や尊敬があふれてしまったラストシーンが心に残ります。
この名作、学校の教科書に載ってたこともあるみたいなので、ご年配の方はけっこう知ってるのかもしれませんが…若年層はほとんどの人が読んでいないはず。
自分もこの作品を知らず、10ページくらいの要約マンガみたいなので知りました。それでも心に残る話だったので、原作を聴いてみたらやっぱすんばらしかった。
Youtubeでも原作を朗読で聞けます↓
九州に実際ある洞穴「青の洞門」
完全なる実話ではないけれど、大分県の耶馬渓には実際に掘られた「青の洞門」というトンネルがあります。
道を通そうとした僧は実在したとのことで。いつか見てみたいものですね。